目次
おいしい四川。
1999年から1年半の間、重慶市に滞在した当時のできごとを回想しながら、
この垂涎のお題について、これからつれづれなるままに、忘れがたい食体験の数々を綴っていきます。
でも、その前に一度だけ、「おいしくなかった四川」について、ぜひ語っておこうと思います。
これは、四川料理をよりおいしく味わうために、多くの人に知っておいていただきたいことなのです。
まさか!本場の四川料理が、おいしくない
18年前、中国語を学ぶために意気揚々として四川の地に降り立ったわたしは、
食卓につくたびに憂うつな気分にさいなまれました。
現地の食事が、おいしくないのです。
辛いものならどんなものでもおいしく食べる自信はありました。
タイ。韓国。メキシコ。
それぞれの辛さに、それぞれのおいしさを見出すことができると思っていました。
それに、わたしが渡航先を決めるもっとも大切な基準は、「食事がおいしそうなところ」だったはずでした。
しかし、どうでしょう。四川料理のコレは。
辛い、などという単純な理由ではなく
辛すぎて食べられない、というわけでもありません。
そうではなくて、味がないのです。
正確に言えば、食事の最初のひと口を食べると、強烈なしびれとともに味覚が麻痺し、
味がまったくわからなくなってしまうのでした。
何を食べても味がないので、毎度の食事は台無しに終わりました。
この麻痺感覚を、地元民たちは「爽!(スカッとする!)」と表現していました。
こうでなくては、食事は喉を通らないと。
日本の四川料理はおいしいのに
渡航前は、四川料理が好きだと自認していました。
マーボードウフ。
ホイコーロー。
タンタンメン。
辛くなければ、おいしくない。
辛いからこそ、おいしいのだと。
日本の四川料理は、うん、やっぱりおいしい。
本場の四川料理は……何がこんなにも違うのでしょう?
お口直しに「さっぱり系」を注文するも…
あまりに食べられるものがないので、お口直しに青菜の塩炒めでも。
少しばかり味気ないけれど、わたしの舌は、とにかくホッとできるものを求めていました。
ごくごくシンプルな、チンゲンサイの塩炒めがテーブルに上ります。
唐辛子の赤がなりをひそめた、とてもおとなしそうなひと皿が。
そして、ひと口。
なぜか、わたしの口の中では、またもや味覚破壊爆弾がさく裂します。
四川の人たちは、味覚が壊れているのではないだろうか?
敗北感交じりに、そうとしか思えませんでした。
こんなものをおいしいと喜んで食べているのはきっと、舌がどうかしているからだと。
「どんな国のどんな料理もおいしく食べる」鉄壁の自負が崩壊
箸は進まず。
そして、テーブルを囲んで盛り上がっているみんなの会話も、まったく聞き取れません。
いつでも手持ち無沙汰のわたしは、ただじっと、一同の食事風景を眺めていることしかできませんでした。
笑顔だけはうっすらキープしていたつもりですが、上手にできていなかったかもしれません。
何より、留学生活の最大の楽しみのひとつだった食生活に関して、まったく楽しめないことが打撃でした。
それまであちこち旅をしてきて、
どんな国のどんな食事もおいしいと感じられる、味覚のダイバーシティには自信がありました。
それなのに、よくよく親しんできたはずの中華料理で玉砕している自分が受け入れられませんでした。
箸が進まないのでひたすらボーっとしていたら、気づいた事実
当時の重慶には外国の料理はおろか、中国のほかの地方の料理を扱う飲食店はほとんどありませんでした。
あったとしても、経済的に余裕のない留学生が気軽に入れるお店などありませんでした。
飢え死にしたくなければ、四川料理を毎日食べる以外に、選択肢はありませんでした。
しかたなく、来る日も来る日も地元の人々の食事に同席し続けました。
そして、あることに気づきました。
食事のマナーに関してはかなりおおらかな中国人ですが、
ここ四川では、テーブルに供された料理をいきなり箸でかっさらって口に運ぶ人はいませんでした。
実はこれが、四川料理をおいしく食べるためのコツだったのです。
食べる前のひと手間が、ありました
料理が出てきたらまずすることは、
「口に入れるべきではないもの」を片っ端から、丹念に箸でよけることです。
四川料理の中には唐辛子を筆頭に、「口に入れるべきではないもの」がたくさん潜んでいるのです。
唐辛子は目立つので、まだ大丈夫。
やっかいなのは、四川料理のスパイスとして唐辛子と双璧をなす「花椒(中国山椒)」でした。
花椒はひと粒ひと粒が小さく、具材に絡みつき、埋もれやすいのです。
箸でお皿の隅々をひっくり返し、花椒をすっかりよりわけてしまうまで、最初のひと口はお預けにしたほうがベターです。
うっかり取り忘れたものがひと粒でもあると……
ジリジリジリジリジリと口の中で暴れだし、たちまち味覚が奪われてしまいます。
この感覚を、中国語では「麻(マー)」と呼んでいます。
辛さを表す「辣(ラー)」とは、また区別されています。
「麻」は文字通り、「麻痺する」味覚です。
「おいしい四川」の不文律とは?
おいしい四川の世界にすんなり入るために、ひとつだけ覚えておきたいルール。
「どんなにおなかをすかせていても、四川料理はいきなりがっついてはいけない」。
これを実行に移すと、わたしの四川生活はたちまち、めくるめく美食の世界に変貌したのです。
※当連載は、筆者が1999年~2000年にかけて重慶市に滞在した当時の体験をベースに綴られており、現在の事情と異なる部分がある可能性があること、また同じ四川文化圏でも地域差が存在することをご了承ください。
次回掲載予定:【四川の漬物文化・その1】お漬物とごはんさえあれば…
四川料理コラムの関連記事
- 中学校中退からフォロワー3000万人以上!地味すぎる四川料理動画で人気爆発YouTuber王剛さんを解説します! 2022年02月13日
- 四川料理の専門家が実食!老媽拌麺「老成都担担麺」ラオマ・バンメンの実力はいかに? 2021年02月02日
- 四川のおふくろの味、おばあちゃんの味 2017年07月13日
- 「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その2- 2017年06月10日
- 「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その1- 2017年06月04日
- 3000キロの遠い四川で、肉じゃがに出逢った 2017年05月12日
- パクチストが目指すべき次の聖地に、四川を爆押しする理由 2017年04月11日
- 【四川の漬物文化・その1】お漬物とごはんさえあれば… 2017年02月16日
- 奇跡を起こした四川の田舎企業ヤオマーズ!幺麻子藤椒油の成功秘話 2017年02月06日
- 中国で一番人気がある調味料、老干媽を作った陶華碧の感動物語 2016年07月29日
麻辣連盟 | 四川料理を愛する仲間たち
四川料理を愛し中華料理が大好き!麻辣連盟では普段日本で食べられている四川料理ではなく、本場の料理を皆で食べる食事会を中華料理店とコラボして、全国で開催します。食の好奇心に刺激され、まだ見ぬ大陸の味を日本で食しましょう!参加される方は入党ください!
【出版】四川省・成都を中心にした食べ歩き旅行の決定版
書肆侃侃房 (2014-08-25)
売り上げランキング: 30,730
SNSでも発信しています!
おいしい四川公式ページ
最新四川料理はツイッターにて!
【成都現地スタッフ更新!】今の四川現地グルメを公開中!
ご案内
プロも愛用!おすすめの香辛料と調味料
人気記事まとめ
- 【保存版】湖南料理の最強おかず「辣椒炒肉」!豚バラと青唐辛子で作る激辛炒め
- 重慶で知った!食べ方を知らなければ、四川料理はちっともおいしくない
- 自宅で作れる!絶対に覚えたい究極の激辛四川料理!水煮肉片レシピ
- にんにくソースが香る絶品四川料理!中華前菜の定番|蒜泥白肉
- 豚バラのうま味がギュッ!と凝縮した究極の蒸し料理「梅菜扣肉」レシピ
おいしい四川運営者について
辛い料理と食べ歩きを愛している方に、日本にはない本場の料理を食べるチャンスを提供する「四川料理の専門家・麻辣連盟総裁」の中川正道です
お気軽に友達申請ください。申請時は一言お願いします! facebookを見る
世界を遊び場に生きる
中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
四川料理マニアたちがつくる四川料理の祭典「四川フェス」主催。過去動員数累計24.5万人。四川料理、しびれ、麻辣、マー活ブームに火をつけ中華業界を盛り上げる。