「火鍋」というワードが日本でもポピュラーになり、ひさしくなりました。
それも、「フォグォ」と中国語読みするのではなく、「ひなべ」と訓読みされるくらいに。
火鍋。中国の鍋ものです。
太極図のかたちに仕切られた鍋に赤いスープと白いスープが入っていて、
いろいろな具材をシャブシャブして食べるもの。
赤いスープは激辛で、白いスープはマイルド。
中国のチェーン店が日本進出して成功したこともあり、
食いしん坊を自認する人の間では、広く認知されているのではないでしょうか?
中国でもその「火鍋」の本場とされるのが、重慶です。
四川料理圏でも、圧倒的に重慶です。
中国国内でも、日本でも、重慶式の火鍋が食べられるようになったのはとてもうれしいことなのですが、
ここまで広く知られるようになると、味覚のローカライズが進むのもまた現実。
味も内容も、オリジナルとは違うものが生まれてきます。
一度でもオリジナルの味を知った人にとっては、
「重慶の火鍋以外は火鍋じゃない!」
と、声にならない心の叫びを秘めることになります。
それくらい、本場の火鍋はおいしいです。本場の火鍋は独特です。
今回は、「本場の重慶火鍋とは何ぞや?」について、
微に渡り細に渡り、語ってみたいと思います。
重慶人の火鍋愛は、半端ない
「じゃ、火鍋行っとこうか!」
会食、接待、歓迎会、誕生会、その他何でも、
重慶では数人が集まれば、すぐに「火鍋だ!」となります。
最低でも週一。
週二でも週三でも、ぜんぜん飽きない。
真夏も火鍋。真冬も火鍋。年中火鍋です。
(どちらかというと、日本とは違い、鍋は夏の風物詩とされています。
激辛&激アツをフーフー言って食べて汗だくになって、結果的に体温が下がり、涼しくなるという理屈です。)
火鍋専門店の店舗数も半端ないものがあります。
讃岐うどんの本場では、信号機の数よりもうどん屋の数が多いと言いますが、
それに匹敵するほどの数が、街中にせめぎあっています。
今や立派な店舗を構える店も多いですが、
地元民がこうした立派な店を利用するのは接待などの特別な場合が多いようで、
お店の立派さと味のよさはとくに比例しません。
ガレージや物置を改造したような、露店に毛の生えたような店も多いですが、
味さえよければ地元民はお構いなしです。
実は筆者も重慶留学時代、日本からはるばる遊びに来てくれた両親を連れ、
行きつけの火鍋屋ではなく、ちょいキレイ目の火鍋店に連れて行って、大失敗したことがあります(笑)。
それだけ店舗数が多くてもやはり、繁盛するお店とそうでないお店があります。
行列してでも入りたいと思うようなお店にはたいてい、その店の「看板具材」があります。
「○○の店は毛肚(センマイ)がおいしい」
「△△の店は鴨腸(アヒルの腸)がおいしい」など。
重慶市民は数えきれないくらいのお店を試して、それぞれお気に入りのお店を持っているのではないでしょうか。
それほどまでに火鍋が好きとあれば、さぞかし家庭でもよく食べているのかと言えば、
必ずしもそうでもありません。
なにせ、本式の火鍋はスープのレシピがとても複雑で、
とても家庭料理のレベルで追いつくようなものではありません。
また、後述しますが、火鍋のメイン具材は臓物であるため、
状態のよい具材を調達するのも、あるいは家庭で下処理するのも、とても骨が折れます。
家庭で火鍋を食べたい場合は、「底料(ディーリャオ)」と呼ばれる市販の火鍋の素を使うことが多いですが、
味の面では外食には到底かないません。
火鍋の起源は、貧乏食だった
重慶の火鍋の起源には諸説ありますが、これらの共通点をざっくりまとめると、
清末から民国初期あたり(1800年代後半~1920年ごろ)に労働者の間で生まれたもののようです。
本来は捨てるはずの牛の臓物を食肉処理場からもらってきてスライスし、
香辛料たっぷりの牛油の中でさっとゆがいたものがオリジナルです。
臓物は精がつくわりに、廉価で経済的です。
天秤棒を担いだ露天商がこれらを商うと、
ふ頭で働く運搬工など肉体労働に従事する者の間で人気を博したといいます。
「本場の火鍋とは、すなわちモツ鍋である」といえます。
これが、本場・重慶の火鍋と、各地の火鍋の決定的な違いです。
本場以外では肉がメイン具材になることが多く、臓物類は省かれていることが多いですが、
本来の火鍋は、臓物にこそ最大の楽しみがあります。
日本の感覚からすると、少々グロテスクでしょうか?
しかし、新鮮で消費の回転も速く、上手に下処理された臓物はくさみもなく、
歯ごたえがあって、脂身もなく胃もたれもせず、淡白なだけにやみつきになるおいしさです。
素材そのものが勝負になる点は、日本のお刺身と感覚が似ています。
海もなく魚介に乏しい土地柄ゆえ、
肉類は余すところなくいただくのが四川の知恵です。
外してはならない、「神具材」TOP7はコレ!
ということで、火鍋に絶対に欠かせない具材も臓物が占めます。
レバーが苦手、ホルモンが苦手、という方にも是非チャレンジしていただきたい。
どれもあっさりとして、臓物の概念が覆ります。
- 毛肚(マオドゥー)
牛の第3胃袋、センマイと呼ばれる部位です。
ブツブツとした見た目はおいしそうには見えませんが、実は臓物系では最もクセのない具材です。
火鍋はこの毛肚なくしてははじまりません。
2010年の報道では、重慶市中心部で消費される毛肚は、年平均150トンだそう!
- 鴨腸(ヤーチャン)
平たいきしめんのようなアヒルの腸です。歯ごたえが命。
鴨腸ほどどこにでもあるわけではありませんが、ガチョウの腸「鵞腸(オーチャン)」は、よりオススメです。
- 黄喉(フアンホウ)
牛の大動脈。ツルリ、コリコリ、グニュグニュとしたイカのような食感。
- 腰花(ヤオファ)
豚の腎臓、マメと呼ばれる部位です。
くさみがなく若干歯ごたえのあるレバーといった感じで、薄くスライスされています。
- 脳花(ナオファ)
豚の脳みそです。そのもののカタチで供されます。白子やフォアグラのようにコッテリ濃厚です。
中国人でも好き嫌いが分かれると思います。
- 血旺(シュエワン)
豚やアヒルの血を豆腐状に固めたものです。固ゆで卵の白身のような食感で、味やくさみはありません。よく煮込んで味を沁みこませて食べます。
- 酥肉(スーロウ)
でも、どうしても肉も食べたい!!!!!という方。
豚肉を衣揚げにしたコチラは、火鍋の代表具材でもあり、四川らしい肉料理でもあります。
できあいではなく、揚げたてを出してくれるお店を探すことがポイントです。
もっともっとマニアックな話は、次回に続きます。
※当連載は、筆者が1999年~2000年にかけて重慶市に滞在した当時の体験をベースに綴られており、現在の事情と異なる部分がある可能性があること、また同じ四川文化圏でも地域差が存在することをご了承ください。
次回掲載予定:「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その2-
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中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
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