目次
「おふくろの味はマズイ」。こんな言葉を聞いたら、ビックリしますか?
実は現代の中国では、このような発言が聞かれても、あまり驚くべき事態ではないかもしれません。
母の手料理といえば一般的には、
「ほっとする」「飽きない」「おいしい」「なつかしい」といったイメージと結びつくはずですが、
中国では“おばあちゃんの味”がおふくろの味を上回ることが少なくありません。
今回はその社会的背景と、真夏にピッタリな四川おばあちゃんの家庭料理をご紹介します。
“女性活躍社会”の母親たちは、料理ができない?
さて、現代中国の母親像について、少し掘り下げてみましょう。
現在のような共産党体制になって以来、中国社会では男女平等が急激に進みました。
結婚、出産、育児。こうしたものはいずれも女性のキャリアを阻む壁にはなりえず、
中国の女性は職業人生の充実をためらうことなく追究します。
そういうと聞こえはいいですが、
むしろ夫婦共働きでなければ立ち行かない家庭が多勢だというのが現状でもあります。
すると、多くの家庭では、働き盛りの夫婦が収入確保に集中し、
家事と育児を祖父母世代が大々的にバックアップする体制になります。
子どもを祖父母宅で生活させ、両親は週末のみを子どもと過ごす、などということも決して珍しくありません。
社会に出て以来、仕事だけに注力してきた女性には当然、料理を学ぶ機会などあるはずもなく、
仮に料理ができなくても何の支障もありません。
「親が作ってくれるから大丈夫。親が作った方がおいしいし!」となるわけです。
かくして、多くの「おふくろの味」を知らない子どもたちが誕生します。
料理上手なおばあちゃんは、纏足だった
工場住み込みの労働者を両親に持ち、
祖父母宅に預けられて幼少期を過ごした1970年代生まれの友人がいました。
彼の口ぐせが正に、
「母の料理はマズイ。母は料理が苦手。でも、おばあちゃんの料理は本当においしかった!」
というものでした。
彼の祖母は、前出の母親世代とは真逆の人生を歩んだ人でした。
話から推測するに、1930年前後に生まれた彼女は、ある地主の第3夫人だったといいます。
戦前の中国では、経済力のある男性が複数の妻を持つのが当たり前でした。
地主に嫁ぐだけあり、彼女はそれなりの家庭の出身だったのでしょう、纏足をしていたそうです。
歴史の教科書の中だけのような話が、いまだ現実として存在するというのも、中国ではままある話です。
そんな時代ですから、女性は外で仕事をすることなどなく、家庭のことに従事していました。
彼の祖母は、いまや昔なつかしい伝統的な四川料理をいくつもつくることができたそうです。
四季折々のハレとケの料理。
「でも、母はそういうものはつくれなかった」と、彼は強調していました。
急激な社会の変化によって、数多くの貴重なレシピが次世代に受け継がれることなく、
断絶していったのかもしれません。
現代の日本も、この相似形を描いているような気がしてなりませんね。
夏バテの救世主!?おばあちゃんの「蒸しナスのラー油がけ」
その纏足のおばあちゃんがよく作ってくれた四川の家庭料理で、友人が最も大好きだったものが、
「蒸しナスのラー油がけ」だったそうです。
タテ4つに切って蒸したナスに、自家製のラー油を使った合わせ調味料をかけただけのシンプルな一品です。
中華料理のナスというと炒め物が多く、調理過程で大量の油を吸うのでハイカロリーになりますが、
こちらは蒸し物ですのでヘルシーにいけます。
食欲が減退する真夏でも、ツルリとした冷たい食感とラー油の刺激が病みつきになり、箸がどんどん進みます。
ちなみに、「蒸す」調理法は中国の家庭料理にとって、ポピュラーな時短テクでもあります。
中国の多くの炊飯器は、フタとお釜の間に蒸し籠が載るようになっていて、
ごはんを炊きながら野菜を蒸すことができるのです。
家庭の数だけレシピがある「辣椒油」
さて、この料理の肝は、四川のどの家庭にも常備されている「ラー油=辣椒(ラージャオ)油」です。
成都の言葉では「紅油(ホンヨウ)」とも言います。
つくりかたは簡単なので、自家製が一般的です。
レシピは各地方や家庭でさまざまですが、最も基本の形は、粉唐辛子に熱した菜種油をかけるものです。
辛さだけではなく香りも大事なので、
使用する唐辛子は、辛さを出すタイプと香りを出すタイプを混合するのが理想。
そこにスパイスや漢方薬剤を配合して、深みを出していきます。
代表的なものでは、
花椒、生姜、にんにく、ネギ、いりごま、ローリエ、
スターアニス、シナモン、フェンネルなどが使われるようです。
熱した油を山盛りの唐辛子にジュワっと注いだ瞬間、モウっと湯気が立ち、
その刺激に目つぶしをくらい、むせ返るのは四川の台所ではお約束です。
この「辣椒(ラージャオ)油」に醤油、黒酢、おろしにんにく、花椒粉などをプラスして、蒸しナスにかけます。
日本の家庭でも簡単に再現できますが、
辣椒油は1回分ではなく、一度にある程度の分量をつくったほうが上手にできます。
四川料理の万能選手、使いみち応用編
各家庭で手作りされた辣椒油は冷蔵庫で保存し、毎日の料理に使われます。
豆板醤と並び、四川料理には欠かせない万能選手です。
日本の感覚でいう味噌&醤油という位置づけでしょうか。
先ほどの蒸しナスに使われた合わせ調味料は、特に冷菜でバツグンの存在感を発揮します。
ナスに限らず、お好みの茹で野菜・蒸し野菜に絡めれば“四川風おひたし”として一品できあがりです。
現地ではドクダミなどの野草・山菜類によくこのタレを使っていました。
野菜だけでなく、ゆで豚や蒸し鶏にも好相性です。
この季節なら、冷しゃぶもたまりません!
また、汁麺に添えたり、混ぜ麺に和えたり、餃子のタレなどにも。
こうしてズラッと並べて見て見ても、夏はとりわけその使いでが増すような気がします。
※当連載は、筆者が1999年~2000年にかけて重慶市に滞在した当時の体験をベースに綴られており、現在の事情と異なる部分がある可能性があること、また同じ四川文化圏でも地域差が存在することをご了承ください。
次回掲載予定:野菜が消える四川の夏
四川料理コラムの関連記事
- 中学校中退からフォロワー3000万人以上!地味すぎる四川料理動画で人気爆発YouTuber王剛さんを解説します! 2022年02月13日
- 四川料理の専門家が実食!老媽拌麺「老成都担担麺」ラオマ・バンメンの実力はいかに? 2021年02月02日
- 「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その2- 2017年06月10日
- 「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その1- 2017年06月04日
- 3000キロの遠い四川で、肉じゃがに出逢った 2017年05月12日
- パクチストが目指すべき次の聖地に、四川を爆押しする理由 2017年04月11日
- 【四川の漬物文化・その1】お漬物とごはんさえあれば… 2017年02月16日
- 重慶で知った!食べ方を知らなければ、四川料理はちっともおいしくない 2017年02月12日
- 奇跡を起こした四川の田舎企業ヤオマーズ!幺麻子藤椒油の成功秘話 2017年02月06日
- 中国で一番人気がある調味料、老干媽を作った陶華碧の感動物語 2016年07月29日
麻辣連盟 | 四川料理を愛する仲間たち
四川料理を愛し中華料理が大好き!麻辣連盟では普段日本で食べられている四川料理ではなく、本場の料理を皆で食べる食事会を中華料理店とコラボして、全国で開催します。食の好奇心に刺激され、まだ見ぬ大陸の味を日本で食しましょう!参加される方は入党ください!
【出版】四川省・成都を中心にした食べ歩き旅行の決定版
書肆侃侃房 (2014-08-25)
売り上げランキング: 30,730
SNSでも発信しています!
おいしい四川公式ページ
最新四川料理はツイッターにて!
【成都現地スタッフ更新!】今の四川現地グルメを公開中!
ご案内
プロも愛用!おすすめの香辛料と調味料
人気記事まとめ
- 重慶で知った!食べ方を知らなければ、四川料理はちっともおいしくない
- 【保存版】湖南料理の最強おかず「辣椒炒肉」!豚バラと青唐辛子で作る激辛炒め
- 「本場の火鍋は違うんです」を、熱く、しつこく語る -その1-
- 角煮の原型?中国で一番人気ある煮込み料理「紅烧肉」の簡単な作り方
- 湖南名物料理!魚の頭を唐辛子で蒸す | 剁椒魚頭
おいしい四川運営者について
辛い料理と食べ歩きを愛している方に、日本にはない本場の料理を食べるチャンスを提供する「四川料理の専門家・麻辣連盟総裁」の中川正道です
お気軽に友達申請ください。申請時は一言お願いします! facebookを見る
世界を遊び場に生きる
中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
四川料理マニアたちがつくる四川料理の祭典「四川フェス」主催。過去動員数累計24.5万人。四川料理、しびれ、麻辣、マー活ブームに火をつけ中華業界を盛り上げる。