日本人は総じて、辛いものや刺激的な味には強くありません(たぶん)。
もちろん、日本にも辛いもの好きの人はたくさんいます。
それに、辛いものを食べようと思えば、
世界各国の辛いものをレストランで食べることができます。
でも、和食に慣れ親しんで育った以上、
世界目線で見れば、
日本人の辛いものに対する耐性はさほど高くはないといって差し支えないだろうと思います。
日本人の味覚の繊細さから見て、対極にあるように思える刺激的な四川料理が、
これほどまでに日本に普及していることは、ある意味フシギなことでもあります。
でも、ご存知ですか?
日本人と四川人の間には、
DNAレベルで共感しあえるほどの同じ味覚が備わっているのです。
日本人と四川人、DNAレベルで共通の味覚
それが、「お漬物で白いごはんを食べる」習慣です。
日本でも四川でもかつて、満足に食べられない時代がありました。
食の選択肢がきわめて狭かった時代もあったでしょう。
そんなときも、脈々とわれわれの命をつないできたのは、主食のお米です。(※注)
そして、おかずは食べられなくとも、
漬物さえあれば、
おなかいっぱいになるまでお米を食べることができたのではないでしょうか?
この強力な共通点は、
日本から来たばかりで現地の食生活にまったく馴染めなかったわたしにとっては、
心からありがたいものでした。
漬物は中国語で「泡菜(パオツァイ)」、
四川に滞在するなら必ず覚えておきたい大事な単語ですよ!
四川の飲食店では、屋台や庶民食堂でも、漬物は注文しなくてもサービスで出てきます。
もちろん、各家庭ではほぼ毎食、食卓に上ります。
※注:農林水産省広報誌「aff」2012年5月号のデータより:昭和35年当時の日本人は、1日の総摂取カロリーの約半分をお米から摂っています。
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1205/spe1_03.html
つきだしの漬物で、そのお店の水準がわかる
ちなみに、飲食店のつきだしで供される漬物の味には、
感動したり、ガッカリしたりと、店によってかなりの格差があります。
漬物がおいしければがぜん、料理への期待が高まります!
その反対であれば、テンションはダダ下がりです。
おいしい漬物を出しているならそれだけで、
その店に再訪する確率はかなり高くなります。
まずい漬物が出れば、
ラー油をかけたり味精(うま味調味料)をかけたりして、なんとか味を補います。
四川の漬物文化は日本に負けないくらい、もしくはそれ以上に厚いもので、
とにかく日常の食生活とは切っても切り離せないものです。
これについてはまた追い追い、詳しく綴っていこうと思います。
四川のおかあさんの、重みあるひと言
現地で懇意にしていた同世代(70年代生まれ)の友人たちの実家で、
当時はよく食事をごちそうになっていました。
そして、そのうちのある1人のおかあさんが、
しみじみと言っていたひと言が忘れられません。
「どんなに貧しくて食べるものがなくても、
ごはんとお漬物さえあれば、それだけで立派な食事なのよ」。
実際に、漬物とごはんだけで満足しなければならないような、
苦しい時代を生き抜いてきたであろうおかあさん。
でも、漬物とごはんだけで満たされる、
という気持ちも本心からのものだと思うのです。
目覚めの胃袋に沁みる、四川の漬物
忙しい朝の朝食も、漬物さえあるなら、誰も文句を言いません。
前夜に炊いたごはんの残りに水を足しておかゆを炊き。
余りものの漬物を刻んで、ごま油で炒め。
それが少し漬けすぎて発酵が進んだ漬物だと、なおよし。
これを、おかゆと一緒にかきこみます。
簡素だけれど、目覚めたての胃袋がこのうえなく喜ぶのがわかります。
かつて暮らした重慶を思い起こすとき、
いまでもすぐに心に浮かぶのは、
街中の至るところで出逢うごま油の香りと、
家々の軒先に並ぶ、大ぶりの漬物のカメなのです。
※当連載は、筆者が1999年~2000年にかけて重慶市に滞在した当時の体験をベースに綴られており、現在の事情と異なる部分がある可能性があること、また同じ四川文化圏でも地域差が存在することをご了承ください。
次回掲載予定:昨今のパクチーブームに寄せて
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中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
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