パクチスト、なんていう言葉をよく見聞きするようになりました。
昨年、2016年ごろからのことでしょうか。
パクチニスト、とも呼ぶようです。
これはパクチー愛好家のことを指します。
いわずもがな、「パクチー(phakchi)」というのは、
タイなどのエスニック料理には欠かせない重要な香味野菜のことです。
「カメムシみたい」とも形容される、強烈で個性的な香りが特徴です。
意外なことに、日本は現在、未曾有のパクチーブームに湧いています。
タイの台所:パクチーソース
出典:http://allied-thai.co.jp/coriander/index.html
今回は、そんなパクチーと四川料理との知られざる親和性について、少々ご紹介します。
その前に!パクチーについて、ザックリおさらい
日本でメジャーとなった「パクチー」という名称はタイ語です。
英語では「コリアンダー」と言います。
原産は地中海沿岸で、タイ以外にもベトナムなどの東南アジア、インドなどの南アジア、
メキシコやペルーなどの中南米、ほかにポルトガルなどで食べられています。
中国語では「香菜(シャンツァイ)」と呼びます。
「チャイニーズパセリ」という呼称もある通り、実は中国でもたいへんポピュラーな香味野菜です。
中国では生の葉を使用しますが、他国では種や根っこまで使う地域もあります。
食の調査と研究を行う「ぐるなび総研」は、2016年の「今年の一皿」に「パクチー料理」を選んでいます。
同社によると、パクチーを提供する飲食店数は前年比ほぼ倍増だったとか。
外食産業だけではなく、さまざまな関連商品が世に出たことで、
家庭の食卓にパクチーが大々的に進出した1年でもありました。
日本でも熱烈な愛好家が増えているパクチーですが、
やはり苦手だと感じる人もまだ多いでしょう。
そもそも、パクチストを自認する人たちでも、
最初からパクチーを「おいしい! たまらない!」と感じたのはごく少数ではないでしょうか?
第一印象は「何だコリャ!?」だったものがいつしか、
「うーん、たまらん!!」に転じた人が多いのでは。
強烈だった第一印象の反作用で、パクチーを愛する気持ちも強烈なものになったのではないかと思われます。
そう、この「強烈」というのは、パクチーにつきものの大事なキーワードです。
なぜなら、四川料理にもつながってくるキーワードですから。
四川とパクチーが仲良しの理由
中国でもポピュラーな香味野菜、とご紹介したパクチーですが、
地域によってやや差があります。
あっさり味を好む上海や広東あたりでは、それほどメジャーな存在ではありません。
逆にスパイシーな味つけを好み、羊肉など個性の強い食材が食される内陸部では、よく食卓にのぼる印象です。
パクチーの存在感には、刺激的な味が釣り合っているのです。
もちろん、四川料理のガツンとくる味は、パクチーに負けることがありません。
そして、四川は暑くて湿度の高い盆地気候です。
早くもゴールデンウィークあたりには本格的な夏の到来となり、それが10月いっぱいは続きます。
中でも重慶は「中国三大かまど」のひとつとされ、酷暑で有名な街です。
冗談のようですが、天気予報を見ると、
「本日の最低気温36℃、最高気温37℃」のような日がえんえんと続きます。
気温が40℃に達すると、会社や学校は閉鎖になるほどです。
クーラーが普及しない時代も長かったため、仕事や勉強どころではなくなってしまいます。
そんな土地柄なので、暑気あたりで弱った胃をいたわり、食欲を増すのに、
パクチーは効果があるとされています。
タイでは一説に、パクチーをよく食べると蚊よけになるとも言われており、
熱帯の気候風土では理にかなった食材なのです。
強烈な辛さ。強烈な暑さ。
このふたつの「強烈さ」が、個性的な香りを放つパクチーと四川料理に親和性を見出す、最大の理由です。
ということで、日本のパクチストのみなさん。
タイに次ぐパクチーの聖地として、ぜひ四川を推したいと思います。
四川で真夏のパクチー経験は、露天のビール屋台で!
中華料理におけるパクチーの位置づけは、いわゆる薬味です。
あえものやスープ、汁麺などに使われます。
もちろん、四川では火鍋の薬味として欠かせない存在です。
ちょうど、日本のネギに相当する存在と考えてよいと思います。
しかし、もし四川を訪れたらぜひ味わっていただきたいのは、
パクチーそのものが主役の「涼拌香菜(リャンバンシャンツァイ)」。
生のパクチーをザク切りにして、たっぷりの辣油であえた「パクチーサラダ」です。
連日の酷暑が続く重慶で過ごしたかつての夏。
日中は外出を控え、ひたすら室内で暑さをしのいでいる市民の活動は、日が暮れてからはじまりました。
ひと目も気にせず、半裸にうちわで夕涼み。
軒先にテーブルを出して、一家で夕ごはん。
家の外に出たって暑いのには変わりがないのですが、
誰もがとにかく、外で過ごす夕暮れを愛していました。
そんな重慶市民の夏の夜の楽しみは、「夜ビール」と呼ばれる露天の屋台です。
中国語では「夜啤酒(イエピージウ)」といいます。
「夜ビール」の屋台は、路上にテーブルと椅子を並べただけの簡素なものです。
提供するのは、座席とビールのみ。
ビールを注文すれば、周辺に居並ぶ食べ物の屋台から好きなものを買ってきて、
テーブルに持ち込んで食べてもよいというシステムです。
(現在では、立派な店舗を構えてお料理も提供する「夜ビール」もあるようです)
フードの屋台は素朴な小皿料理と、「焼烤(シャオカオ)」という串焼きが中心です。
小皿料理は冷菜の類もありますし、
ずらりと並ぶ食材を選んでその場で炒めてもらう「小炒(シャオチャオ)」があります。
串焼きはお肉だけではなく野菜類も豊富で、唐辛子と花椒をたっぷりふりかける刺激的なものです。
そんな「夜ビール」で出会ったのが、先にご紹介した「具はパクチーのみ」という大胆なサラダです。
今でこそ日本の飲食店でも食べられますが、
1999年当時のわたしには、衝撃以外の何物でもありませんでした!
中国のパクチーは日本のものよりも若い状態で収穫されるので、やわらかく口当たりもよく、
何とも言えない口福を感じるひと皿でした。
四川を訪れるパクチストへの注意事項
火鍋の薬味として重用されるパクチーですが、
実は火鍋の具材としてもメジャーな存在です。
パクチストとしては挑戦せずにはいられないでしょうが、具材としてのパクチーには要注意。
細かい葉や茎に唐辛子が絡みつき、完全によけて食べることはむずかしいです。
よって、火を噴くような激辛になります。
辛いもの好きであり、パクチストである筆者も、これだけはなかなか食べられませんでした。
※当連載は、筆者が1999年~2000年にかけて重慶市に滞在した当時の体験をベースに綴られており、現在の事情と異なる部分がある可能性があること、また同じ四川文化圏でも地域差が存在することをご了承ください。
次回掲載予定:四川にもあった、“甘くない”肉じゃが
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中川正道、1978年島根県生まれ。四川師範大学にて留学。四年間四川省に滞在し、四川料理の魅力にはまる。2012年にドイツへ移住。0からWEBデザインを勉強し、フリーのデザイナーとしてドイツで起業。2017年に日本へ帰国。「人生の時を色どる体験をつくる」をテーマに妻の中川チカと時色 TOKiiRO 株式会社を設立。
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